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しかしそれを、厳しいコストや歩留まりを要求される民生品として作ることは不可能であった。
電子銃から発射されたビームがブラウン管の蛍光面に次々と正確に当たっていかなければカラー画像を再生できないが、正確に当てるために細かいドットを開けた薄い銅版を使うシャドーマスク方式に対し、クロマトロンでは、細いステンレス線を1ミリずつすだれ状に張ってこの機能を働かせていた。
1枚の銅版をセットするだけのシャドーマスク方式に対して、恐ろしく生産に手間どったであろうことは想像に難くない。
現に、試作機を作るだけでも2年の年月を要している。
らの生産決行の成功体験は、I氏の脳裏から離れなかったのである。
このときの実情は、トランジスタのときよりもはるかに悪かった。
1000台生産して良品は3台あれば良い方であった。
実に歩留まりは、0.3パーセントということになる。
それでもSは生産を続けた。
いかに苦労を重ねても、月産1000台が限界だった。
カラーテレビの市場拡大に対応して、他社は月産数万台ベースに達していた。
Sは引き離される一方であった。
このような歩留まりの低さは、技術完成度の低さの表れである。
工場の出荷検査段階では良品と判断された製品でも、実際に市場に出てから、クレームが相次ぐことになる。
Sはそれまでパーソナル用の比較的小型の商品が主であった。
故障品が出ても、ユーザーがサービス会社に持ち込める大きさである。
しかしクロマトロンは、リビングルームに据えつけられた大型商品である。
十分な人数のサービス体制があったわけでもない。
しかし、サービスマンは全国のユーザーの家を駆け回らねばならなくなった。
膨大なロスコストである。
しかも、商品自体に利益がなかった。
売価岨万8000円に対して、製造コストは判万円以上かかっていたのである。
むろん、当時の貨幣価値で妬億円と言われる開発投資が回収されるあてなどなかった。
Sは経営危機に陥る。
他社の方式は採用せずI氏の成功体験となったトランジスタの開発時代には、その前に開発したテープレコーダーが市場に定着し収益源となっていた。
トランジスタが歩留まり5パーセントで赤字を出しても、これを吸収できる製品があったのである。
しかも、まだ創業から日が浅く社員は120人たらずであった。
全員が技術者でSが解体されても自分で生きていけるスペシャリストばかりであった。
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